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2010.04/02(Fri)

作品の価値をどこに置くか●向日葵の咲かない夏

理由付けも含めて面白くないが、技巧的な作品。


『向日葵の咲かない夏』

明日から夏休みという終業式の日、小学校を休んだS君の家に寄った僕は、
彼が家の中で首を吊っているのを発見する。

慌てて学校に戻り、先生が警察と一緒に駆け付けてみると、なぜか死体は消えていた。

「嘘じゃない。確かに見たんだ!」混乱する僕の前に、
今度はS君の生まれ変わりと称するモノが現れ、訴えた。

―僕は、殺されたんだ。

半信半疑のまま、僕と妹・ミカはS君に言われるままに、真相を探る調査を開始した。


『このミステリーがすごい!』 2009年版 作家別投票第1位
第6回本格ミステリ大賞候補  (大賞は『容疑者Xの献身』 著:東野圭吾)

著者:道夫秀介


【More・・・】

・・・う~ん。
『このミステリーがすごい!』も、当たり外れがあるからなぁ。

◆以下の文章には、『向日葵の咲かない夏』のネタバレが含まれています。
この作品は、ネタバレを知ると、著しく読む気が失せるので、
↑のあらすじを読んで、少しでも読んでみようかと思われた人は、
この先の文章は読まない方が良いです。

・・・ただ自分の場合、読む前にオチや、どういう事件が起きるかという事を知っていたら、
多分、読まなかったでしょう(笑)

発端の事件は、S君の首吊りと死体の消失なんですが、それ以外にも舞台となる町には、
ノラ猫の足を折って、口に石鹸を詰め込むという動物虐待事件が起きています。

で、それら全てがオチに向かって繋がっていく訳ですが、変則的な夢オチと複数犯の様なもので、
説明付けはされていたものの、知らない人は何となく説得されてしまうのかもしれませんが、
自分はあまり納得できる物ではありませんでした。

その内のひとつが、犬が死体を運ぶという事。
S君が飼っていた犬に、死体を運ばせる訓練をしていて、
S君自身を運ばせるというのは無理があります。

犬が目的を達成するのは、飼い主との信頼関係や、主従関係が成立しているから。
誰か分からない遺体を飼い主の元に運ぶのは成立するかもしれないけど、
飼い主自身の遺体を、犬が運ぶというのは疑問。
犬にとって、行動原理の根幹となる存在だからね。

更に、その飼い主であるS君が死んだという事が分かるのは、小説の読者だけで、
現実的に考えた場合、犬には分かりません。

寝ている&ナゼか動かないと考え、死んだS君の近くで伏せて、
長い間、動き出すのを待ちます。
・・・と言っても、ありえない事が小説なので、
100歩譲って、飼い犬がS君の死を瞬時に理解して運んだとしましょう。

今度はどうやって?という疑問が出てきます。
犬のサイズは出ていなかったと思うけど、S君が小柄な小学生だとしても、
咥えて運ぶとなると、かなりの大型犬。

小学生を犬が咥えて運ぶ姿は、小説の舞台になっている規模の町に限らず、
人の少ない田舎ですら、この上なく人目を引きます。
しかも犬に、「見つからないように運ぶ」という事は出来ません。

この辺りの種明かしは、比較的サラッと書いてあり、
著者本人も苦しい理由付けという事に、気付いているかも知れません。

次に、事件の種明かしに関してですが、ミチオの現実を認めたくないという気持ちが、
S君の生まれ変わりや、ミカを生み出していたという理由付けの場合、
ミチオが、S君の犯人として担任に疑惑を持ち、
担任の住居に侵入するという行動には無理があります。

自分で創作の物語を作り、その世界に生きる人間は、
自分の世界を壊しかねない捜査なんてしないです。
なぜなら作中でミチオが、「新事実が分かる度に、物語を作り直していた」という言葉通り、
自分が進入する危険を冒さなくても納得できる物語を作るからです。

そんな疑問点も、作者の言う通り受け入れられる人には、
面白いと感じさせる作品なのかもしれません。

基本的に、エンターテイメントにとって、エロもグロも必要な要素だと思っています。
それは小説に限らず、映像でも、音楽ですら同じです。
エロやグロを毛嫌いする人間は、人間である自分がエロい生き物だという事も、
残酷な生き物だという事も認めない子供が多いです。

そういう事を言っていたら、エログロを毛嫌いし反論する女性の知り合いは、
村上春樹の『ノルウェイの森』のエロスや、
『ねじ巻き鳥クロニクル』のグロなんかは良いらしい。

・・・だから、あなたは子供なんです(笑)

まぁ、そういう意味でも、個人的にグロは受け入れる方ですが、
上記の理由から、理由付けの穴を感じてしまい、
グロ割には理由付けがゆるくて、読後感は面白くないなぁ~という感じでした。

まぁ、気になる人は読んでも良いと思うけど、このネタバレレビューを読んで、
逆に読みたいと思う人がいたら、それはそれでスゴイかも(笑)

伏線の張り方や、思い込みのトリックを使った、技巧的な作品ではあると思うので、
その辺りに価値を見出せる人には、面白い作品だとは思います。

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テーマ : 推理小説・ミステリー - ジャンル : 本・雑誌

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